マーケな夜会 WEB & SEO担当の竹原/FilmPresso です。
3分でわかる結論
- 課題は「言われたまま」受け取らない。「売り先がない」の裏にある“本当の課題”を、数字と前提の検証であぶり出す。
- 「全部売り切る」前提を疑う。単価×利益×数量で逆算すると、解くべき問いが「数を売る」から「単価を上げる」に変わる。
- 物ではなく“理由”で選ばれる。機能差がつきにくい時代、ストーリー(祖父の40年ノート=物語資産)が最強の差別化になる。
- 既存の購買文脈に乗せる。ゼロから需要を作らず「年越しそば」「いつものトロロの上位互換」など、すでにある習慣に商品を差し込む。
- 初手を一つに絞る。全部やりたくなるが、勝ち筋は「最初の一手」を決め切ること。
題材:5,000本・売り先ゼロの自然薯農家
舞台は静岡県袋井市。元・大手旅行会社(JTB)の社員が、84歳になる祖父の40年分の栽培ノートを受け継ぎ、自然薯農家に転身しました。農園名は「717(なないな)」——初収穫が717本だったことに由来します。
商品力は申し分ありません。粘りと香りが非常に強く、安定して大きいサイズが採れる。それでも経営の現実は厳しく、今年11月に約5,000本を収穫予定なのに、売り先が一つも決まっていない。単価は1本1,500〜2,000円が相場で、仮に完売してもサラリーマン平均年収の半分ほど。1〜3年目は赤字——。
課題の抽出方法 ― 本当に解くべき問いの見つけ方
マーケティングは“打ち手”の前に“課題設定”で9割が決まります。事業者が口にする課題は、たいてい表層です。プロのマーケターたちが「本当の課題」へ降りていった手順を、4ステップに分解しました。
思いを引き出す。自分の得意分野に“誘導しない”
ヒアリングの鉄則は「相手の思いを引き出すこと」。マーケターは皆それぞれ得意領域を持つため、つい自分の土俵に話を寄せたくなる。そこをぐっと我慢して、事業者の言葉・背景・動機を先に丸ごと受け取る。
本編より:「自分が言いたいことに誘導しない。事業者の思いを引き出すのがポイント」——ヒアリングのコツとして全員が意識していた点。
数字で逆算する。「感覚の課題」を「計算できる課題」に変える
「売れない」という曖昧な悩みは、単価 × 利益率 × 数量に分解した瞬間に解像度が上がる。何本をいくらで売れば事業が成立するのか。逆算すると、打ち手の優先順位が自動的に見えてくる。
本編より:1本1,500〜2,000円、5,000本完売でも年収の半分という数字が出たことで、「数を売る」だけでは解けないと全員が気づいた。
前提を疑う。「全部売り切る」は本当に課題か?
相談者は「5,000本をどう売るか」を課題だと思っていた。しかしプロはその前提そのものを疑う。「全量を売り切る必要は本当にあるのか?」「課題は“数”ではなく“単価”では?」——課題の枠を組み替えることが、最大のレバレッジになる。
本編より:「5,000本すべて売り切らないといけないのか問題」という問い直しが、議論の流れを変えた。
制約を“強み”に反転する。弱みの裏に資産がある
「無名」「規模が小さい」「人手がない」——制約は、見方を変えると差別化資産になる。この事業者にとっては、祖父の40年ノートと脱サラ就農の物語こそが、誰にも真似できない武器だった。自社の“当たり前”の中に、外から見ると価値になるものが眠っている。
本編より:品種でのブランド差別化が難しい作物だからこそ、「人とストーリー」で選ばれる設計に活路があると整理された。
マーケティング手法 ― 4つの打ち手から学ぶ“型”
プレゼン編では4人のマーケターが、それぞれ全く異なる切り口で施策を提案しました。重要なのは個別アイデアそのものより、どんな“型”を使ったか。中小事業者がそのまま転用できる4つの型として読み解きます。
型①:既存の購買文脈に“乗せる”(上位互換ポジショニング)
提案者:七海さん(セラマーケティング)
ゼロから需要を作るのは難しい。そこで、すでに人々が買っている「トロロ」の使用シーン(山かけ丼・卵かけご飯)に「いつものトロロの上位互換」として差し込む。さらに冷凍パウチ化で配送・在庫・廃棄ロスをゼロに。新しい習慣を作るのではなく、既存の習慣を“格上げ”するのが要点。
型②:物語で売る(プロセスエコノミー/ブランディング)
提案者:深瀬さん(FilmPresso)
機能差がつきにくい時代、選ばれる理由は「物」から「物語」へ。完成品を売るのではなく、作る過程(祖父のノートを1ページずつ解読・実践する姿)をコンテンツ化して発信し、ファンを育てる。物の便益ではなく“応援したい理由”で選ばれる状態を作る型。
型③:本数より“単価”で利益を伸ばす(価値の再定義)
提案者:複数のマーケター共通
生産量を増やすには時間がかかる。ならば相場より高く売れる理由を作り、単価を上げる。「安さで買う客ばかりではない」——品質とストーリーに自信があるなら、採算の合う強気の価格設定でも選ばれる。利益=単価×数量のうち、中小は“単価”の方が動かしやすい。
型④:ハレの日 × 習慣化 × 直販(採用施策)
提案者:鈴木マサルさん(サステライト)— 優勝案
「自然薯を買うタイミングがない」という核心を突き、年越しそばをアップグレードした“年越しトロロそば”を、年末の健康祈願マルシェ(神社)で販売。年に一度必ず食べる“ハレの日”需要と収穫期が一致。その場でLINE登録を促してファン化し、最終的に「農園の横に行列ができる」直販へ繋げる。季節需要・習慣・直販・顧客リスト化を一本の動線にしたのが評価点。
採用された施策と、選ばれた理由
相談者が採用したのは型④(年越しトロロそば × 直販 × LINE)。決め手は、奇抜さではなく「最短最速で最大量を売る王道」を、無理なく実行できる形に落とし込んでいた点でした。そばにすれば芋の生産量が少ない年でも売上が立ち、年越しそばは「年に一度、必ず食べる」習慣で、収穫期とも完全に重なる——複数の制約を一度に解いていたのです。
「全部やりたい。でも、初手を一つに絞ることが大事」
― 相談者が採用を決めたときの整理
ここに、中小事業者にとって最も実務的な学びがあります。良い打ち手は同時にいくつも見つかる。しかしリソースが限られる事業者の勝ち筋は「初手の一点突破」。あれもこれもと薄く広げるより、最も成立確率が高い一手にベットし、回り始めてから次を足す。落選した3案(上位互換・物語化・価値再定義)も、初手が回り始めた後に重ねる“次の一手”として全て有効です。
自社で使える実践チェックリスト
このレポートを、あなたの事業に当てはめてみてください。明日から使える7つの問いです。
- 表層の課題と本当の課題を分けたか?「売れない」を、なぜ売れないのかまで降りて言語化できているか。
- 単価×利益×数量で逆算したか?「何を・いくらで・何個」売れば成立するか、数字で説明できるか。
- 前提を疑ったか?「全部売る」「新規で攻める」など、無意識の前提が課題を歪めていないか。
- 制約を強みに反転できないか?自社の“当たり前”の中に、外から見れば価値になる物語・歴史・人がないか。
- 既存の購買文脈に乗せられないか?新しい習慣を作らず、すでにある習慣の“上位互換”になれないか。
- 本数より単価で伸ばせないか?値上げの理由(品質・物語・体験)を、価格に翻訳できているか。
- 初手を一つに絞ったか?全部やろうとせず、最も成立確率の高い「最初の一手」を決め切ったか。
動画アーカイブ(ヒアリング編・プレゼン編)
本レポートの全議論は、YouTubeでフルアーカイブを公開しています。リアルな課題抽出のやり取りと、4者4様のプレゼンは、それ自体が実践的なマーケティング教材です。