Official Report · Case Study

売り先ゼロ」をどう売るか。
本当の課題の抽出方法と、
勝てるマーケティング手法

公開:2026.06.07 読了:約8分
#課題抽出 #マーケティング手法 #中小事業者の集客

「いいモノは作れる。でも、売り方がわからない」——多くの中小事業者・経営者が抱えるこの悩みに、マーケな夜会のプレゼンバトル『自然薯をマーケせよ!』が一つの教科書になります。年間5,000本を収穫予定なのに売り先がゼロ。この実在のケースを題材に、4人のマーケターが「本当の課題」をあぶり出し、打ち手をぶつけ合いました。本レポートは、そのヒアリング編とプレゼン編を、あなたの事業にそのまま転用できる「課題の抽出方法」「マーケティング手法」に整理したものです。

マーケな夜会 WEB & SEO担当の竹原/FilmPresso です。

3分でわかる結論

  • 課題は「言われたまま」受け取らない。「売り先がない」の裏にある“本当の課題”を、数字と前提の検証であぶり出す。
  • 「全部売り切る」前提を疑う。単価×利益×数量で逆算すると、解くべき問いが「数を売る」から「単価を上げる」に変わる。
  • 物ではなく“理由”で選ばれる。機能差がつきにくい時代、ストーリー(祖父の40年ノート=物語資産)が最強の差別化になる。
  • 既存の購買文脈に乗せる。ゼロから需要を作らず「年越しそば」「いつものトロロの上位互換」など、すでにある習慣に商品を差し込む。
  • 初手を一つに絞る。全部やりたくなるが、勝ち筋は「最初の一手」を決め切ること。
The Case

題材:5,000本・売り先ゼロの自然薯農家

舞台は静岡県袋井市。元・大手旅行会社(JTB)の社員が、84歳になる祖父の40年分の栽培ノートを受け継ぎ、自然薯農家に転身しました。農園名は「717(なないな)」——初収穫が717本だったことに由来します。

商品力は申し分ありません。粘りと香りが非常に強く、安定して大きいサイズが採れる。それでも経営の現実は厳しく、今年11月に約5,000本を収穫予定なのに、売り先が一つも決まっていない。単価は1本1,500〜2,000円が相場で、仮に完売してもサラリーマン平均年収の半分ほど。1〜3年目は赤字——。

「いいモノはある。でも、どう売ればいいのかわからない」。これは農業に限らず、職人・メーカー・店舗・サービス業まで、地方の中小事業者に共通する“あるある”の構造そのものです。だからこそ、この回は転用が効きます。

Method 1 ― Problem Finding

課題の抽出方法 ― 本当に解くべき問いの見つけ方

マーケティングは“打ち手”の前に“課題設定”で9割が決まります。事業者が口にする課題は、たいてい表層です。プロのマーケターたちが「本当の課題」へ降りていった手順を、4ステップに分解しました。

01

思いを引き出す。自分の得意分野に“誘導しない”

ヒアリングの鉄則は「相手の思いを引き出すこと」。マーケターは皆それぞれ得意領域を持つため、つい自分の土俵に話を寄せたくなる。そこをぐっと我慢して、事業者の言葉・背景・動機を先に丸ごと受け取る。

本編より:「自分が言いたいことに誘導しない。事業者の思いを引き出すのがポイント」——ヒアリングのコツとして全員が意識していた点。

02

数字で逆算する。「感覚の課題」を「計算できる課題」に変える

「売れない」という曖昧な悩みは、単価 × 利益率 × 数量に分解した瞬間に解像度が上がる。何本をいくらで売れば事業が成立するのか。逆算すると、打ち手の優先順位が自動的に見えてくる。

本編より:1本1,500〜2,000円、5,000本完売でも年収の半分という数字が出たことで、「数を売る」だけでは解けないと全員が気づいた。

03

前提を疑う。「全部売り切る」は本当に課題か?

相談者は「5,000本をどう売るか」を課題だと思っていた。しかしプロはその前提そのものを疑う。「全量を売り切る必要は本当にあるのか?」「課題は“数”ではなく“単価”では?」——課題の枠を組み替えることが、最大のレバレッジになる。

本編より:「5,000本すべて売り切らないといけないのか問題」という問い直しが、議論の流れを変えた。

04

制約を“強み”に反転する。弱みの裏に資産がある

「無名」「規模が小さい」「人手がない」——制約は、見方を変えると差別化資産になる。この事業者にとっては、祖父の40年ノートと脱サラ就農の物語こそが、誰にも真似できない武器だった。自社の“当たり前”の中に、外から見ると価値になるものが眠っている。

本編より:品種でのブランド差別化が難しい作物だからこそ、「人とストーリー」で選ばれる設計に活路があると整理された。

Method 2 ― Marketing Tactics

マーケティング手法 ― 4つの打ち手から学ぶ“型”

プレゼン編では4人のマーケターが、それぞれ全く異なる切り口で施策を提案しました。重要なのは個別アイデアそのものより、どんな“型”を使ったか。中小事業者がそのまま転用できる4つの型として読み解きます。

型①:既存の購買文脈に“乗せる”(上位互換ポジショニング)

提案者:七海さん(セラマーケティング)

ゼロから需要を作るのは難しい。そこで、すでに人々が買っている「トロロ」の使用シーン(山かけ丼・卵かけご飯)に「いつものトロロの上位互換」として差し込む。さらに冷凍パウチ化で配送・在庫・廃棄ロスをゼロに。新しい習慣を作るのではなく、既存の習慣を“格上げ”するのが要点。

型②:物語で売る(プロセスエコノミー/ブランディング)

提案者:深瀬さん(FilmPresso)

機能差がつきにくい時代、選ばれる理由は「物」から「物語」へ。完成品を売るのではなく、作る過程(祖父のノートを1ページずつ解読・実践する姿)をコンテンツ化して発信し、ファンを育てる。物の便益ではなく“応援したい理由”で選ばれる状態を作る型。

型③:本数より“単価”で利益を伸ばす(価値の再定義)

提案者:複数のマーケター共通

生産量を増やすには時間がかかる。ならば相場より高く売れる理由を作り、単価を上げる。「安さで買う客ばかりではない」——品質とストーリーに自信があるなら、採算の合う強気の価格設定でも選ばれる。利益=単価×数量のうち、中小は“単価”の方が動かしやすい。

型④:ハレの日 × 習慣化 × 直販(採用施策)

提案者:鈴木マサルさん(サステライト)— 優勝案

「自然薯を買うタイミングがない」という核心を突き、年越しそばをアップグレードした“年越しトロロそば”を、年末の健康祈願マルシェ(神社)で販売。年に一度必ず食べる“ハレの日”需要と収穫期が一致。その場でLINE登録を促してファン化し、最終的に「農園の横に行列ができる」直販へ繋げる。季節需要・習慣・直販・顧客リスト化を一本の動線にしたのが評価点。

Why It Won

採用された施策と、選ばれた理由

相談者が採用したのは型④(年越しトロロそば × 直販 × LINE)。決め手は、奇抜さではなく「最短最速で最大量を売る王道」を、無理なく実行できる形に落とし込んでいた点でした。そばにすれば芋の生産量が少ない年でも売上が立ち、年越しそばは「年に一度、必ず食べる」習慣で、収穫期とも完全に重なる——複数の制約を一度に解いていたのです。

「全部やりたい。でも、初手を一つに絞ることが大事」

― 相談者が採用を決めたときの整理

ここに、中小事業者にとって最も実務的な学びがあります。良い打ち手は同時にいくつも見つかる。しかしリソースが限られる事業者の勝ち筋は「初手の一点突破」。あれもこれもと薄く広げるより、最も成立確率が高い一手にベットし、回り始めてから次を足す。落選した3案(上位互換・物語化・価値再定義)も、初手が回り始めた後に重ねる“次の一手”として全て有効です。

Practice

自社で使える実践チェックリスト

このレポートを、あなたの事業に当てはめてみてください。明日から使える7つの問いです。

  • 表層の課題と本当の課題を分けたか?「売れない」を、なぜ売れないのかまで降りて言語化できているか。
  • 単価×利益×数量で逆算したか?「何を・いくらで・何個」売れば成立するか、数字で説明できるか。
  • 前提を疑ったか?「全部売る」「新規で攻める」など、無意識の前提が課題を歪めていないか。
  • 制約を強みに反転できないか?自社の“当たり前”の中に、外から見れば価値になる物語・歴史・人がないか。
  • 既存の購買文脈に乗せられないか?新しい習慣を作らず、すでにある習慣の“上位互換”になれないか。
  • 本数より単価で伸ばせないか?値上げの理由(品質・物語・体験)を、価格に翻訳できているか。
  • 初手を一つに絞ったか?全部やろうとせず、最も成立確率の高い「最初の一手」を決め切ったか。
Archive

動画アーカイブ(ヒアリング編・プレゼン編)

本レポートの全議論は、YouTubeでフルアーカイブを公開しています。リアルな課題抽出のやり取りと、4者4様のプレゼンは、それ自体が実践的なマーケティング教材です。

第1回【ヒアリング編】公開で課題をあぶり出す回
第2回【プレゼン編】4者が施策をぶつけ合う回
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