マーケな夜会 WEB & SEO担当の竹原/FilmPresso です。
3分でわかる結論
- 同じ土俵で戦わない。「太陽光発電とどっちが得か」で比べられると勝てない。スペック・コスト以外の“違う土俵”に価値を移すと、比較対象が消える。
- 全員に売らない。10人中10人ではなく「3人がめちゃくちゃいい」と熱狂する人を見つけ、その人を発信源にする。
- 売り手の言葉を作る。BtoBtoC(代理店経由)では、現場の営業担当が“自信を持って語れる動機と言葉”が最大の武器になる。
- 物語・体験・思想を売る。機能差がつきにくい時代、選ばれる理由は「物」から「物語・体験」へ。プロセスや世界観こそ差別化資産。
- 勝った提案は“業態の再定義”。「設備メーカー」から「思想を体現するブランド」へとピボットし、資産を体感に変える長期戦略が選ばれた。
題材:太陽“熱”の住宅システム「OMソーラー」
舞台は浜松。相談者はOMソーラー株式会社 代表取締役・村田昌樹さんです。OMソーラーは1987年創業(前身は「OMソーラー協会」)。多くの人が「ソーラー=太陽光発電」と思いますが、これは太陽の“熱”を使う仕組み。屋根で温まった空気を床下へ送り、電気やガスにできるだけ頼らずに家全体を暖め、温度差の少ない住まいをつくります。考案者は、フランク・ロイド・ライトの系譜(アントニン・レーモンド → 吉村順三 → 奥村昭雄)に連なる建築家・奥村昭雄。「面白い・もったいない」を合言葉に、自然を生かすパッシブデザインの思想が根底にあります。
ビジネスはBtoBtoC。全国およそ100社の加盟工務店が、施主にOMソーラーを提案・販売します。住宅だけでなく学校や公共施設にも採用され、災害時に「あたたかい避難所」として機能した事例もあります。強みは、大学等との共同研究で検証されたヒートショック低減・血圧への効果や、家中の温度差のなさといった“健康と心地よさ”です。
課題の抽出 ― なぜ「比較されると負ける」のか
ヒアリングで浮かび上がった“本当の課題”は、「知名度が低い」ことそのものではありませんでした。プロたちが降りていった論点を4つに整理します。
“土俵”を間違えると、強みが弱みになる
住宅性能もエアコン性能も上がった今、「省エネ・コスパ」で比べると太陽熱は不利。さらに「ソーラー」という名前のせいで太陽光発電とコスパ比較され、導入コストが高い分だけ負ける。強い商品が、土俵の選び方ひとつで“割高な選択肢”に見えてしまう。
本編より:「太陽光発電と比べると効率が悪いとなりがち。でも、全然違う土俵があるんじゃないか」と村田社長。
選ばれる理由は“情緒”だった
実際に採用した人の言葉は「太陽を感じる暮らしがしたい」「電気に頼らず後ろめたくない」。つまり数値スペックではなく情緒的価値で選ばれている。にもかかわらず、売り場ではコストで説明されがち——ここに大きなズレがあった。
本編より:「データやエビデンスではなく、情緒的なところで選ばれる方が多い」。
全員に売ろうとしない。“3割の熱狂”を探す
村田社長自身が求めたのは「10人中10人がいいと思わなくていい。3人でも“めちゃくちゃいい”と熱狂する人を見つけ、その人が発信してくれる状態」。万人受けを諦めることが、むしろ突破口になる。
本編より:DIYに「お金を払うからもっと穴を掘らせろ」と言うような価値観の人が、日本に2〜3割はいるのでは、という仮説。
“誰に伝えるか”が二重になっている(BtoBtoC)
売るのは工務店だが、選ぶのは施主。工務店の営業担当が自信を持って語れる言葉を用意しつつ、施主にも価値が届く発信が要る。ただし「協会がルーツ」という歴史から、工務店を飛ばした直販はしない——パートナーを守る前提が課題を形づくっていた。
本編より:「公務店か施主か、BかCかは置いといて、太陽の熱を使う意味をどう表現するかを考えてほしい」。
4つの提案から学ぶマーケティングの型
プレゼン編では4人が、まったく異なる角度から施策を提案しました。個別アイデアより、どんな“型”を使ったかが、中小事業者にそのまま転用できる学びになります。
型①:売り手の“意識と言葉”を変える(インナーブランディング)
提案:鈴木 裕矢さん(アロー株式会社/ゲスト・当日手書きプレゼン)
狙いは「次世代の営業マンがOMソーラーを強く勧める動機と方法づくり」。「自然の力=安い」から「自然の力=高い。風流を楽しむ成熟した大人にこそ」へと価値の意味づけを反転。さらに有名建築家と組んで公共空間で建築賞を狙い、“憧れ”をつくって認知へ広げる。売る前に、売り手の物語を立て直す型。
型②:物語を共有する(プロセスエコノミー/動画メディア)
提案:深瀬 泰宏さん(株式会社filments)
「完成品を売る時代から、物語を共有する時代へ」。全国のこだわり工務店の“家を建てる過程”をドキュメンタリー化する『家ログ』というメディアを提案。ショート動画で興味を引き、長尺の住まい手の声で真実を伝える。撮影は地域内製化でコストと足回りを担保し、ファンコミュニティへ。機能ではなく過程と人で選ばれる型。
型③:ビジネスモデルで“買う理由”を作る(仕組みの設計)
提案:名波 知彦さん(Stella Marketing/株式会社シンカー)
商品名を「イエポカOM」とし、4つのゼロ(導入費0円/温度差0度/ヒートショックリスク0/家族との距離0m)でパッケージ化。核は導入費0円のモデル——金融機関と組んだ優遇金利ローンで「OMを入れても実質安い」状態にし(エコカー減税の発想)、太陽熱のCO2削減をJクレジット化して還元する。「OMの家だからこそ成立する」環境価値の仕組みで売る型。
型④:業態そのものを再定義する(アセット&ピボット)― 優勝
提案:竹原 興紀さん(FilmPresso)
既にある資産(全国の工務店ネットワーク/浜名湖畔の体感拠点「地球の卵」/ライトの系譜という創業者の物語/パッシブ思想)を活かし、「全館空調メーカー」から「パッシブデザインカンパニー」へ業態をピボット。社屋の敷地内に“泊まれるモデルハウス”を建て、まず全国の加盟工務店を研修旅行で招待→次に「契約する近くの工務店経由でのみ予約できる一棟貸し」にして送客と体験を設計する。売り方ではなく“何の会社か”を変える長期戦略の型。
採用された提案と、選ばれた理由
村田社長が「一人の人間として、OMを何とかしたい」という視点で独断で選んだのは、型④・竹原さんの“パッシブデザインカンパニーへの業態ピボット”でした。決め手は3つ。第一に、ライト→吉村→奥村という創業者の系譜を真正面から資産化したこと(「選ばざるを得ない反則技」と評されました)。第二に、最大のパートナーである工務店に“泊まってもらって関係と意見を交わす”という実践性。第三に、提案にあった「みんなで世の中を変えようとしている仲間」という言葉が、社の思いと重なって深く刺さったことです。
「4人とも会社に持ち帰って検討したい。その上で、OMを何とかしたい一人の人間として選びました」
― 相談者・村田社長の講評
注目すべきは、落選した3案も“次の一手”として全て生きること。村田社長は、裕矢さんの案には「次世代営業マンと建築家連携をビジネスとして一緒にやりたい」、深瀬さんの案には「住まい手の声を拾いたかった。プロセスが大事」、名波さんの案には「金融・公的機関と組む“広がり”に、もう一度挑戦しろと言われた気がした」と、それぞれに具体的な手応えを語りました。勝ち負けより、課題に対する“引き出しの多さ”を持ち帰れる——これが公開コンサルの価値です。
自社で使える実践チェックリスト
「いい商品なのに比較されると負ける」と感じたら、この7つを自社に当てはめてみてください。
- 今、どの“土俵”で比較されている?その土俵は、自社が勝てる土俵か。降りるべき比較軸はないか。
- 本当は何で選ばれている?採用客の言葉を集めると、スペックではなく情緒・体験で選ばれていないか。
- 全員に売ろうとしていないか?万人受けを諦め、“3割の熱狂者”を具体的に描けているか。
- 売り手(販売チャネル)が語れる言葉はあるか?代理店・現場が自信を持って勧められる動機と言葉を渡せているか。
- 物語・過程・思想を見せているか?完成品だけでなく、作る過程や世界観をコンテンツにできないか。
- “買う理由”を仕組みで作れないか?価格・金融・制度を組み合わせ、選びやすい入り口を設計できないか。
- そもそも「何の会社か」を再定義できないか?商品の売り方ではなく、業態・ポジショニングごと見直す余地はないか。
動画アーカイブ(ヒアリング編・プレゼン編)
本レポートの全議論は、YouTubeでフルアーカイブを公開しています。リアルな課題抽出のやり取りと、4者4様のプレゼンは、それ自体が実践的なマーケティング教材です。